†君、男~Memory.. limit of grief~
◇
「さむ…」
校舎を出て恵はそう発する。
手をさすりながら息白しが出る。
燐と万里は明日私立大学推薦入試。
空を見上げ、恵は祈る。合格するようにと…。
「レイン」
優しい声。つい喜んでしまう自分がいた。
「何か用?優兄」
素っ気無い返事に見えるかもしれないが、
実際はそうではない。
今の恵は確実に前とは違う。
「去年のイブの日の事覚えてるか?」
「去年の…?食事に行った日?」
去年の12月24日。
優介の知り合いがやっているというお店に
行った時の事だ。
恵はいぶかしみながら訊いた。
「それがどうした?」
「今年も行かないか?」
「 」
あまりにも急な誘いに言葉が出ない恵。
優介は首をかしげた。「どうした?」
「えっあっいや…何でもない。
別にいいけど、私でいいの?」
「え?」
ハッとして口を押さえる恵。
何でこんな事を口にしたのだろうと後悔していた。
「時間…決まったら教えて」
恵は鞄を握り締め、夕日の中へと消えていった。
止めようにもタイミングを逃した優介は
ただその場に立っている事しか出来なかった。