†君、男~Memory.. limit of grief~






「さむ…」


校舎を出て恵はそう発する。
手をさすりながら息白しが出る。


燐と万里は明日私立大学推薦入試。
空を見上げ、恵は祈る。合格するようにと…。


「レイン」


優しい声。つい喜んでしまう自分がいた。


「何か用?優兄」


素っ気無い返事に見えるかもしれないが、
実際はそうではない。
今の恵は確実に前とは違う。


「去年のイブの日の事覚えてるか?」


「去年の…?食事に行った日?」


去年の12月24日。
優介の知り合いがやっているというお店に
行った時の事だ。
恵はいぶかしみながら訊いた。


「それがどうした?」


「今年も行かないか?」


「     」


あまりにも急な誘いに言葉が出ない恵。
優介は首をかしげた。「どうした?」


「えっあっいや…何でもない。
 別にいいけど、私でいいの?」


「え?」


ハッとして口を押さえる恵。
何でこんな事を口にしたのだろうと後悔していた。


「時間…決まったら教えて」


恵は鞄を握り締め、夕日の中へと消えていった。
止めようにもタイミングを逃した優介は
ただその場に立っている事しか出来なかった。


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