†君、男~Memory.. limit of grief~



「水(那)高の文化祭楽しみだよね。
 一回来たことあるんだけど、
 舞台がすごいんだよー」


「あぁうちも去年行った。
 確か軽音部がすごかった記憶が…」


「そうそう!でも歌ってる人は
 一般生徒みたいだよ。
 軽音の人たちは楽器だけ」


“一般生徒”その言葉で恵は
話に耳を傾ける。


「何で一般生徒なの?」


その質問に答えたのは信吾だった。


「聞いた話だけど、
 何もしていない一般生徒の方が
 盛り上がるみたいなんだって。
 まぁ校内祭だけのやつだけど、
 舞台を盛り上げてくれる人…
 オーディションがあるらしいけどね」


納得した恵は軽く頷く。
朱音が横から入ってきた。


「何々?文化祭出ようと考え中?」


「まさか、あるわけないだろ」


「レインの声聴いてみたーい。
 3時間近くいるけど、レインまだ
 1回も歌ってないでしょ?
 1回ぐらい歌いなよ、せっかく来たんだし」


「そうだよ、せめて1回ぐらいさ」


「そこまでして歌わなきゃいけないの?」


嫌そうな顔をする恵だが、
他の5人は一斉に頷いた。


「…分かったから」


「レイン歌うの嫌い?」


ボタンを押しながら頷き、
「嫌い」と呟いた。


「どうして…?」


「もし、何かに合う歌があるなら、
 それしか見れなくなって、 
 悲しむの…」


「え?」


メロディーが流れ始める。
題名は『眠り姫』だった。
この曲の歌詞を書いた人は
自ら体験したことを書き表した物だった。


冬に込めた想い…。
今の季節とは間逆だが、
その歌詞に秘められた想いは
誰よりも強いものだろう。




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