†君、男~Memory.. limit of grief~


低い声と高い声が調和した
恵の声は、仲間でさえ呆気にとられるほどだった。


体育館の空気は一変した。



「すごい…すごすぎるよレイン。
 カラオケで歌ったときよりも
 感情が強く出てる」


結菜は呟く。
横で信吾も同じように
呟き、愕然としていた。



“これが蒼井恵―――…”


誰もがそう感じた瞬間でもある。
ずっと一緒にいた結菜達でさえ
まだ知られていない恵の本心が
鋭く胸を突き刺す。



どんな想いで、
何を感じているのかは
恵本人しか絶対に分からないだろう。



「さすがレイン、
 格が違うね」


小刻みに震える燐の手。
しかし、それは今に始まったことでもなかった。




何かを想ってぶつける歌。
今歌った曲だって、
レインが考えたもの。


頭の中でいろんなことが飛び交ってる。



“私は裏切ったのだから”


“今日は優兄の誕生日だろ?”



何を掴み、何を叫べばいいのか
まったく見当がつかない。



レインの言う罪は
何―――…?



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