恋口の切りかた
橋の上で、遊水が私に語った過去は──嘘ではなかったけれど、真実全てでもなかった。



でも──



私は、落ち込んでいたあの時に遊水がかけてくれた言葉を思い出した。


私を救ってくれたあの優しい言葉は──真実だったと思う。



「私も、それでも、やっぱり遊水さんは、悪い人じゃないと思うよ」


私は円士郎を見上げて微笑んだ。


「遊水さんはエンの友達で、私にとっても大切な友達だよ」


円士郎は衝撃を受けた顔で私を見つめて、

「留玖……」

私の手をぎゅっと握ってくれた。



「かわいそうに。鬼之介の奴、勝ち目ねーな」

後ろで隼人がそんな風にごちるのが聞こえてきて、

「つうか、あの遊水って野郎の話しか聞けてねーし。俺は蜃蛟の伝九郎について聞きたいんだっつうの」

「御武家様は、蜃蛟の伝九郎について知ってどうなさるおつもりで?」


正慶が鋭く細めた目を隼人のほうに向けた。


「お斬りになりますかえ」

……えっ?

私と円士郎は顔を見合わせて、隼人を振り返った。

「何故、そう思う?」

外は陽が沈み、黄昏時の藍の光は逆光になっていて、
扉の横に立って正慶にそう問い返す隼人の輪郭を片側だけわずかに浮かび上がらせてはいても、彼の表情まではわからなかった。
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