恋口の切りかた
「声音に殺気が潜んでおりますわえ。深い恨みがおありのご様子ですが……」

おやめなさいな、と元盗賊の女は忠告した。

「蜃蛟の伝九郎という者──私が抜けた後に入った者のようで詳しくは存じませんが、一味の者を殺せば必ず報復がありましょう。
御武家様ご自身が『闇鴉』から命を狙われるお立場になります。武家の者であろうと仲間を殺られれば容赦はしない。
それが、『闇鴉』でございますよ」

ふん、と藍色の闇の中で隼人が鼻を鳴らした。

表情が見えなくとも、聞く耳を持っていないのがありありと伝わってきた。


「やれやれ、こちらは親切心で申しているというのに、どうして御武家様というのはこうなのでしょうかねえ」

円士郎と隼人を見比べて正慶が苦笑した。


「そっちこそ、白輝血を何とかしてえんなら手を貸してやるって提案してんのに、突っぱねやがってよ」

円士郎がニヤリとして、

「しかし手ぶらで帰るのもシャクなんでな、一つ俺の推理を聞いてもらおうか」

と意味不明なことを言った。


「鵺の大親分についてだ」

「おや、何でございましょう」

正慶が目をすがめて、私はまた目玉が落ちるのではないかと冷や冷やした。


円士郎はずいっと手を伸ばして、片目の尼僧に指を突きつけ、





「あんたが、鵺だろ」





いきなり、突拍子もない発言をした。
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