恋口の切りかた
「ええ、よろしいですよ」

しかしあっさりとそんな答えが返ってきた。


えっ? と円士郎が固まり、

男の人が見ている前で!? と私が真っ赤になる中、


尼僧は私たちに背を向けて袈裟を外し、慣れた手つきでするすると着物を脱いで、



上手く前は着物で隠したままだったし暗くてよく見えなかったけれど、それでも暗闇にボウと浮かび上がる生々しい上半身の白い肌をさらして



背中を見せた。



何にもない、綺麗な白い背中だった。

いくら暗くても、真紅の入れ墨がないことくらいは一目瞭然だった。



「ねえぞ!? そんな馬鹿な……!」

円士郎が狼狽した。


「もうよろしいでしょうかね」

正慶がくすくす笑いながら言って、

「あ……ああ、悪かったな」

円士郎は鼻白みながら首肯した。


正慶が再び慣れた様子で手早く着物を着込む前で、「あれえ?」と円士郎は首を捻り続けていた。


「絶対に当たってると思ったんだが……」


着物を着終わった正慶が、残念でしたわねえと言って、



「でも、惜しいところまで行っていた、とだけ申し上げておきましょうかねェ」



立ち去る私たちに、彼女は最後にそんな言葉を寄越したのだった。
< 1,025 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop