恋口の切りかた
「緋鮒(*)の仙太が、金魚屋かよ……何のシャレだって話だよなァ」

荒れ寺を後にして、すっかり暗くなった道を武家屋敷の並ぶ区画に向かって歩きながら円士郎がぼやいて、

私は、あの目玉がポロポロ落ちる尼僧が語った金魚屋の過去を思い出した。


始めに聞いた時は衝撃を受けたけれど、でも、やっぱり遊水さんは遊水さんだと思って、


それから──

子供時代に数年で盗賊をやめて、
私たちと出会うまで。

今聞いた話ではすっぽりと抜け落ちた時間があることに気がついた。


その間遊水がどこで何をしていたのか──

依然として謎のままだ。


鬼之介が見せた遊水に対する異常な怯え方も、

子供時代に盗賊の彼と出会っていたから

……とは考えづらい。


まあ、もちろん可能性が零ということではないのだろうけれど。


やっぱりまだ、他にも私の知らないことがありそうだった。

もっとも、私にとっては一番衝撃的だった事実を知った今なら、大抵のことには驚かないでいられると思った。


「よォ、今の正慶って奴……最初に見た時から物凄く気になってたんだがよ」

歩きながら、そんなことを言い出したのは隼人だった。

「何か意味があるのかわかんねーし、言おうかどうしようか迷ったんだが……」



(*緋鮒:ヒブナ。突然変異の赤いフナ。約二千年前に中国南部で発見され、これを原種として金魚が作られたとされている)
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