恋口の切りかた
八、囚われの留玖
【円】
危うく遊水の過去だけで収穫皆無のまま引き上げるハメになるところだった。
俺はつくづく隼人を連れて行って良かったと、この部下が役に立つことを実感し、
緋鮒の仙太か。
これで──繋がった、と思った。
正慶が語ったあいつの過去は、
俺にとって謎だった、あの金の髪の男の空白の時間や得体の知れなさの理由を全て埋めるものだった。
もうこれ以上驚愕の新事実とか出てこないだろうな、と思って──
それから、美人女絵師の顔を思い浮かべた。
前回隼人と一緒に会った時には、結局最後まで迷いつつもその問いを口にすることができなかったが、
あいつは鳥英の身元を知っているのか?
俺は気になって──
数日後の午後、一人で鳥英の長屋を訪ねた。
外は、午前中の晴れ渡った天気が嘘のように、昼過ぎから梅雨の雨がしとしと降り続いていて、天照で狙われる恐れはなさそうだった。
さて見慣れた長屋の前に着いて傘をたたみ、
戸を叩いて中に声をかけてみたが返事がない。
留守のようだった。