恋口の切りかた
「俺も一つ気になってたんだが、遊水さんよォ」

二人が去った後、隼人もそう言って遊水にジロジロと視線を送った。

「何でございましょう」

しれっとした態度の遊水に、


「こんな刻限に、何の用で来たんだ?
まるで──拐かしがあったのを知ってやって来たような様子だったけどよ」


隼人は訝しそうにそう問いただした。

今度は俺と鬼之介が顔を見合わせた。


「だとすれば変な話だよなァ。てめーが現れた時点で、このことを知ってた者はごく限られてたっつうのに……」

その隼人の言葉に、遊水は何が楽しいのか満面の笑みでぺしりと頭を叩いた。

「おや、秋山様はご存じなかった? 私は操り屋と言いまして、人心・情報を操る裏家業もしておりやして。裏の情報には通じているもので」

「おい……!」

役人の隼人相手に何を暴露しているのかと言わんばかりに、鬼之介が声を上げて、

「あー、隼人にはもう今さら隠す必要もねーよ」

あっけらかんと俺が言った。


「情報に通じてるっつってもよ……この拐かしはその情報源が限られる気がするんだけど」

隼人はなおも腑に落ちない様子で呟いていたが、ニヤニヤ笑いを浮かべている遊水を見て黙った。

どうやら追及しても無駄だと悟ったらしかった。
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