恋口の切りかた
「まァッたくよォ。アホだろオマエ。
剣の達人が聞いてあきれるねェ。あんな簡単に薬を口にする奴があるかァ?」

霧夜にやれやれと溜息を吐かれて、私は己の軽率な行動を今さらのように反省した。


それから、
私と同じように薬を盛られて、あの時横で昏倒した若者を思い出した。

ここには私と霧夜以外の者の姿はないようだけれど、志津摩はどうなったのだろう。


「伝九郎の野郎、武家の娘にいたくご執心でねェ、大変だったぜ? 奴からオマエを取り上げるのは。
まァ俺と、あのお玉とかいう女に感謝するんだなァ」


お玉……って誰?

私には聞き覚えのない名前だ。


「カラクリ鬼之介の長屋の大家の娘とか言ってやがったか……ありゃァ、凄ェ上玉の女だったねェ」


霧夜は私の考えていることを知ってか知らずか、そんなことを言った。

鬼之介の関係者まで捕まっている、ということだろうか。


「奴がお玉ってェ女を気に入ったのを見て、どちらか一人にしろって言ってやったのさ。
で、オマエのほうはこの俺がいただいた」


霧夜が薄ら笑いを浮かべて言うのを聞いて、私はぎくりとした。

刀を頬に当てられたままだったので、うかつに動くことも出来ない。


「俺だって楽しむなら、こんなガキよりゃ色気のある女のほうが良かったのによォ」


霧夜は、凍りつく私のほっぺたを再び刀の側面でぴたぴたと叩いて、


「とりあえず男の格好はいただけなかったんで、眠ってる間に俺好みの格好に取っ替えさせもらったぜェ。
ひははは! よく似合うよく似合う」

と、私を眺め回しながら笑った。
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