恋口の切りかた
「んん……」

どういうことなのか、と訊こうとして、私は口を塞がれたままなのに気がついた。

自分で外そうとして引っ張ってみたけれど、口を覆う布は頭の後ろでガッチリ結ばれていて、簡単には外れなくて──

見ていた霧夜がクスッと笑った。
この人がこんな風に笑うところは初めて見た。

「手足を拘束しても、口は武器になるからな。オマエの場合は特に念入りに塞いでおいた」

霧夜は「じっとしてろ」と言って手を伸ばし、解いてくれた。


「こんなに泣かせる気はなかったんだがよ……悪かったな、怖い思いさせて」

布が外れると、霧夜は濡れた私のほっぺたをそう言ってなでて──


私はなんだかどぎまぎした。


物言いは相変わらず乱暴だったけれど、打って変わった優しい態度は、
狂犬だという巷の噂や、何度か目にした普段の荒くれ者の姿からは、全くかけ離れていて、想像もできなかった。


先程とは違う意味で顔が熱くなるのを感じて、私は慌てて霧夜の手を振り払って離れて──


かららん、という音と共に、霧夜が放ってきた私の刀が床の上に転がって回転した。


「外には兵五郎の手下の見張りがいる。半分任せるぜ。
余裕だろ、おつるぎサマならよォ」


逃がしてくれる、ということだろうか。


「これで、一つ貸しだ」


信じられない言動に対して目を見開く私に、霧夜はそう言った。


「私のこと、助けてくれるんですか?」

何故──?

混乱していると、まさか! と霧夜が笑った。

「こっちが助けてもらうんだよ」

「え?」
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