恋口の切りかた
【円】
宗助が戻ってきたのは夜中を回った頃だった。
当然一睡も出来ず、座敷で鬼之介と隼人の二人と共に待っていた俺に、宗助は歯切れの悪い報告を寄越してきた。
「おつるぎ様とお玉という女は、兵五郎の店には監禁されていない。いくつか奴らの息のかかった場所を探ったが、いずれにも姿はなかった」
「確かか?」
「ああ。手下を何人か捕まえて吐かせようとしたが、誰も場所を知らなかった。意外と徹底している。
武家の──それも結城家ほどの家の息女を拐かした証拠が出たら、向こうとて無事では済まないことは理解しているのだろう。
いずこかの廃屋か──自分たちとは無関係で、かつ人目につかない場所にでも監禁していると考えるのが妥当だ」
渡世人も、ただの馬鹿でこんな強行手段に出たわけではないか。
「どうする気だ?」
と、鬼之介が俺を見て訊いた。
怒りのあまり引きつった笑いが浮かぶのを感じながら、俺は刀を手に立ち上がった。
「兵五郎のところに乗り込んで直接吐かせる! 武士をコケにしやがって!
たっぷり後悔させてやる……!」
「待てよ!」
俺の様子に、慌てた声を上げて隼人が立ち上がり、俺の肩をつかんだ。
「少しは冷静になれって! 二人の居場所もわかってねえのにそんな真似したら、それこそ二人がどんな目に遭わされると思ってんだよ!?」
「俺は冷静だ!」
怒鳴りながら隼人の手を振り払う。
「宗助! お前は外で貸元の店を見張れ!
違う場所に監禁しているならば、兵五郎を問い詰めたことで人質に危害を加えるために誰かが伝令に走るハズだ。それを追え」
ふん、成る程なと鬼之介が鼻を鳴らし、隼人が目を見開いた。
「そんな一か八かみてえな真似、できるかよ!」
「じゃあ、てめえには他に何か手があるのかッ!!」
怒鳴りつけた俺をぼう然と眺めて、隼人は絶句した。