恋口の切りかた
ちっ、と舌打ちする隼人を前に、

「人質を二箇所に分散させて監禁している場合に備えて、もう一人、救出のほうに人手があったほうがいい」

宗助が俺の耳元で、なかなか鋭い可能性を指摘した。

「町方の役人を使う方法もあるが……」

「いや、連中は動かさない」

宗助の耳打ちに俺は首を横に振った。

「町方連中を動かしてこれ以上事を荒立てる気はねえ。留玖は俺たちだけで取り戻す」

俺は部屋の入り口でかしこまっている冬馬を見た。

「冬馬、留守中に町方連中が来たら進展はないと言って追い返せ。絶対に連中を動かすな」

「はっ!」

冬馬はやや不満そうな色を浮かべたものの、気合いの入った返事を寄越してきた。



「相手は渡世人だ。斬り合いになるぞ」

と、どうやら覚悟を決めた様子で隼人が言った。

「そうなったらどうする? 斬り捨てていいのかよ?」

「いや。今のところ白輝血が人質を取ったという証拠はねえ。それで奴らが拐かしを知らぬ存ぜぬで通そうとしたら、俺たちが一方的に渡世人を斬り殺したってことになる。

まあ、死なない程度に手加減してやるしかねえな」

げえ、と隼人が嫌そうな顔になって、それから「本当に冷静じゃねーかよ」と小さく苦笑した。

「ふん、少しだけ安心した」

俺も口の端を吊り上げて、不敵に笑って見せる。

「ったりめーだ。俺がしっかりしてねえと、助けられるものも助けられなくなる、だろ?」

遊水の言葉を思い出しつつ、そう口にして、


結局、宗助と鬼之介が人質のほうに、俺と隼人が兵五郎のほうに当たることにした。

乱闘になった場合、心の一方は使える気がしたが、渡世人などを相手に使う気はないと鬼之介がキッパリ拒否したので、屋内戦に有利な隼人の小太刀術を頼りにさせてもらうことにする。

「屋敷は私にどうぞお任せ下さいっ」

そう言う冬馬に見送られて、俺は留玖の救出のため、隼人たちと共に寝静まった深夜の城下へと出発した。

脳裏には彼女の笑顔ばかりが浮かんでいた。
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