恋口の切りかた
霧夜の話では、私と一緒に薬で昏倒した志津摩は、円士郎への伝言役として帰してもらえたのだそうで、私は少しだけ安心した。

円士郎たちには、私を返してほしければ捜査から手を引くようにと伝えられたらしい。

「オマエらに手を引けって点は、俺も同意見だがな。やり方が気に入らねえ」

霧夜は不愉快そうに吐き捨てて、

「さてと。時間がねえ。日が昇る前に城下に戻るぜ」

そんなことを言った。

「ってここ、どこなんですか?」

蛙の声が蝉時雨さながらに聞こえてくる周囲を見回して私は首を捻り、

「隣町との間の峠を越えたところにある空き家だな」

霧夜の言葉に耳を疑った。

城下からは半日──ほどは離れていないにしても、馬を使ったほうが良いくらいのちょっとした距離だった。

役人に調べられても大丈夫なように、随分と念を入れたらしい。


まっすぐ城下に戻ろうとする霧夜に私は、私と同じように捕まっているお玉という人も助けてからにしたいと訴えてみたのだが、却下されてしまった。


「さっきも言ったろ、その女の監禁場所には蜃蛟の伝九郎がいる。
奴は厄介だ。避けて通れるならそれに越したことはねェ。せっかく貸元の所から離れてる今、ワザワザぶち当たりに行かなくても、兵五郎を何とかしちまえば奴は消える。

それともお嬢ちゃんは、伝九郎に勝てる自信でもあるのか?」

霧夜はニコリともしない真面目な顔でそう言った。

「自信がある……ワケではないですけど」

「だったら駄目だね。そんな危険な真似はさせられねェ」

真剣な目で見つめられて霧夜にそう言われて、私はまたちょっとだけどきんとしてしまった。


霧夜の乱暴な言動や意外な優しい態度が、誰かに似てるから……かな?


よく見ると、傷のせいで凶悪に見える顔も、思いの外整っている気がして、

この人、この傷がなかったら結構な色男じゃないのかなあ、と思った。
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