恋口の切りかた
霧夜は、どれだけ尋ねてもお玉という人が捕まっている場所は教えてくれなかった。
うかつに教えて、私が勝手にそちらに向かうことを避けるためだろう。

一見、喧嘩が強いだけの荒くれ者にも見えるけれど、この辺りはちゃんと考えて行動している。

「お玉さんって人が私の代わりに、今も蜃蛟の伝九郎から酷い目に遭わされているんでしょう」

連日の雨でぬかるんだ山道を歩いて行く霧夜の後を追いかけて、私は泣きそうになりながら必死に訴えた。

「先に助けに行かせてください、お願いします。霧夜さんのお手伝いも、その後でちゃんとしますから!」

「駄目だ」

「でもっ……」

会話に気を取られていた私はぬかるんだ地面に足を取られ、転びそうになって慌てて近くの樹木に手をついた。

夜で暗いのと、雨のせいで足下が悪いせいもあるけれど……


うう、女の人の着物って動きづらい!


私は久しぶりに着た──と言うか着せられた女物の小袖を見下ろしてうなった。

女の人の格好って、どうしてこう窮屈なのかなあ。

上体は帯できゅうきゅう締め上げられて、こうして動き回ると呼吸までしづらいし、
男物の着流しと違って足の下の方までしっかり着物に巻き付かれている感じで、両足を揃えて縛られていた先刻までと大差ない気がする。

しかもこの小さな下駄!

可愛いけれど、こんな山道を歩くのには全く適していない。
いつもの草履が欲しかった。


「大丈夫か? 息が上がってるな」

足を止めて振り返ってきた霧夜を、私は恨めしい思いで睨みつけた。

「こんなモノ着てるからですようっ! 私の着物、返してください!」

勝手に着替えさせられた恥ずかしさがこみ上げてきて、また涙目になりながら言うと、
霧夜はゲラゲラと笑った。
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