恋口の切りかた
「ああ、オマエの着物なァ。あれはキッチリ捨てておいた」

「捨てたァ!?」

「足が着くとマズいからな」

「ヒドい……」

私がうつむくと、また霧夜はゲラゲラと笑って、私の顔を覗き込んだ。

「さっきは長ドス片手にあれだけの大立ち回りができたんだ、問題ねェだろうが」

「歩きづらいんです!」

だいたい、考えてみたら女の人だって普通はこんな小袖姿で山道を歩いたりしないのではないだろうか。

「ん~?」

霧夜は首を捻って手にしていた提灯を掲げ、ちょっと歩いてみな、と私に言った。

言われたとおり、てけてけ歩いて、私は数歩でまたよろめいて転けそうになった。

「オマエ、男物の着物着て、袴で歩く時と同じように足出してるだろ」

眺めていた霧夜があきれたように言った。

「え?」

「歩幅を小さくして、もっと内股気味──右足は左前、左足は右前に出す感覚で歩いてみろ。それから、傾斜のある場所では斜めに立って、裾を踏まないように手で持ち上げながら登るんだ」

言われたように歩いてみると、確かに幾分楽だった。

そう言えば結城家に来た最初の頃、慣れない着物姿で裾を踏んだり転んだりしていた私に、母上が所作についても丁寧に教えて下さった気もするなあ、と思った。


──って言うか、どうして霧夜からこんなことを教えられなくてはならないのだろう。

私は少しだけ落ち込んだ。
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