恋口の切りかた
意味がわからず、私はぽかんと霧夜の顔を見上げた。

「ど……どういうことですか?」

「そいつはこっちが訊きたいね」

霧夜は肩をすくめた。

「ただ、あれは嫌がってるフリをしてるだけで、自分から望んで男に身を任せてやがった」

「どうしてそんなことが……」

「わかるのさ。商売柄、こっちも人を騙し慣れてるもんでね」

その言葉には説得力がある気もしたけれど──

「あの女、本当にただの長屋の大家の娘かァ?」

そう訊かれても、私はそもそもその人と会ったこともないのだからわかるはずがない。

霧夜はニヤッとして、

「まあ、単なる男好きなのか隠れて夜鷹(*)でもやってンのか知らないが、オマエと違って男慣れしてそうだったし、問題ないと思うぜェ?
伝九郎もなんだかんだ言って若くてイイ男だしな、お楽しみの最中なら邪魔しちゃ返って悪ィってもんだろ」

私は赤くなって視線を落とした。


そ……そんなことがあるのかな?

無理矢理男の人に弄ばれて、嬉しい女の人なんているとは思えないけれど……。


私が子供だから、わかんないだけ、なのかな?


「あんなガキの女の相手なんかしてらんねー」という円士郎の言葉が耳の奥に蘇って、私はズキンと胸が痛むのを感じた。



(*夜鷹:鳥ではなく、江戸の町で道に立って客を引いた売春婦のことも呼称した。そこから、ここでは売春婦のこと)
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