恋口の切りかた
え? ええ?
混乱する私の顔を覗き込んで、霧夜の手がほっぺたに触れた。


「素材が良いし、あと三、四年もすりゃァ、オマエはイイ女になるぜェ? 俺が保証してやる」


ボッという音を立てて、それこそ顔から火が出るかと思った。

カワイイねェ、と霧夜は私の頬に触れたまま笑って、


「その惚れた男に飽きたら、いつでも俺の女にしてやるよ」


と言った。

霧夜の言葉はどこまで本気なのかわからなくて、渡世人が私みたいな世間知らずの娘をからかって楽しんでいるだけだとは思ったけれど、私はどう返したら良いのかわからなくなってしまった。


「き……霧夜さん……」

辛うじて彼の名前だけ口にしたら、

「『さん』なんて付けなくッても、『霧夜』でいいぜェ」

なんて言われるし、

「武家のお嬢さんに、敬語で話しかけられるってのもどうもなァ……普通に話しな。やっぱりオマエ変わってるよ」


そうやって会話の口調に潜む相手との距離を縮めようとするところなんかも、彼と似ている気がした。
< 1,134 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop