恋口の切りかた



一瞬、私は何をされたのかわからなくて、



「女の子がこういう無茶するんじゃねェよ」

いたずらっぽく笑んで、霧夜がそう言った。



ぼう然とその顔を眺めて

唇に残った柔らかくて温かい感触に、心臓が爆発した気がした。



「わあああああ──っ」


私は悲鳴を上げて、口元を着物の袖で擦った。


「な……何するのっ!! ばかばか! 霧夜のばかぁっ」


騒ぐ私をしばし呆気にとられた顔で眺めて、

それから霧夜は腹を抱えて笑い出した。


「笑い事じゃないっ!」


涙目でごしごし口元を擦っていたら、おい、と言って霧夜に腕をつかまれた。


「やめろ。そんなことしたら傷が広がるだろうが」


顔を見上げたら、霧夜は本気で心配そうに私を見つめていて、
そんな風に気遣われて、動悸が跳ね上がるのがわかった。
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