恋口の切りかた
「大げさだなァ、大したことしてねーだろ」

「どこがっ」


今、今、……この人、凄いことした!

私、凄いことされた──!!


「ホラ、とっとと行くぜェ」


恐慌状態に陥っている私を無視して、霧夜は本当に何でもないことだったように山道をすたすたと歩き出してしまって──


「霧夜のばか!」


私はもう一声その背中に叫んで、山火事みたいになっているほっぺたで後を追いかけた。

平和な蛙と虫の鳴き声が、辺り一面の夜の闇に響いていた。


キケンだったんだ。

今さらのように、私は思った。

うう……この人って、キケンな人だったんだ。

大人の男の人って危ないんだ──!



霧夜のニヤッとした口元や、いたずらっぽい目つきや、唇に残った感触が何度も蘇って、

円士郎と一緒にいるわけでもないのに、心臓がどうにかなりそうなくらいどきどきしていた。
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