恋口の切りかた
「結城の……!」

俺の顔を見知っている子分がすぐに気づいた様子で、店の上から声を上げた。

「こいつら、殴り込み……」

「じゃねェよ!」

続けて叫びかけた子分に跳び蹴りを食らわせて、そのまま土足で店の畳の上に立ち上がり俺は怒鳴った。

「兵五郎親分にちょいと話があるだけだ!」

「……言ってることとやってることがバラバラだぞアンタ」

土間に立ったまま、隼人が表情を強ばらせて、

「まあ、武士を捕まえて殴り込みはねーよな。せめて討ち入りとか……」

何やらどうでも良いことをブツブツと呟いた。

大戸に設けられた潜り戸を潜って夜中に突然現れた「客」に、この場へと駆けつけた子分連中はざっと十人余り。
俺はそいつらを傲然と見回した。

「てめえら、怪我したくなかったら、とっとと兵五郎を連れて来な!
嫌だってんなら、勝手に上がらせてもらうぜ」

既に勝手に店に上がっている上、話し合いに来たセリフではない気がしなくもなかったが、
俺はそう宣言すると、低い格子の仕切を横目にとっとと店の奥へと歩き始めた。

大きく溜息を吐いて、隼人が「ハイハーイ、じゃあ俺もお邪魔させてもらいますよ~」と軽薄な口調で言いながら俺の後について店に上がり込んだ。
もちろん土足で。

あっけにとられた顔で俺たち二人を眺めていた子分たちが、見る見る顔を赤く染めていきり立った。

「こいつら……!」

「ふざけやがって──やっちまえ!」

お約束のかけ声と同時に一斉に向かってきた。
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