恋口の切りかた
「さあて、観念しろよ?」

そう言って、俺が一歩踏み出した瞬間、


黙っていた狐面の男が、笑い声を上げた。

狐面の下から不気味な声を漏らして、男は手にしたカラクリの糸を投げ捨て──


彼のかたわらに置かれていた担ぎ屋台を、足で蹴飛ばした。


乾いた破裂音を立てて屋台が爆発し、

吹き出したもうもうたる煙が兵五郎と狐面の姿を覆い隠す。


──くそ、逃げる気か!?


「逃がすかよ!」


怒鳴って、俺は二人の姿が消えた煙の中に飛び込む。


「エン!?」

留玖の声が聞こえ、留玖と与一も後ろから追いかけて来る気配がした。


ちくしょう、何にも見えねえ!


胸の中で毒づきながら、俺は煙を突っ切って──



煙幕の外に飛び出した途端、視界を眩しい光が覆った。
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