恋口の切りかた
結城家の留玖 の 章
一、天童
【漣】
数日後──。
刀丸の体力が回復するのを待って、俺は彼を道場へと連れて行った。
この子が刀丸かと、前から会いたがっていた親父殿が大喜びし、
刀丸が「結城様!」と平伏して俺が引っ張り起こす、なんてやり取りの後──
「漣太郎、まずはキミが相手をしなさい」
虹庵に言われて、俺は木刀を構えて刀丸と向き合って立った。
剣の腕も卓越(たくえつ)している虹庵は、うちの道場の師範代も務めている。
城下で噂の鬼の子を見ようということなのだろう。
道場の中は門下生たちであふれていた。
ほとんどは城下町に住む侍で大人が多いが、中には子供の姿もあって、寺子屋で見かけた武家の子供や町人の子供もいる。
皆、稽古の手を休め、固唾(かたず)をのんで俺と刀丸に注目していた。
虹庵が、奥で腕組みをしている親父殿を振り返った。
親父殿が軽くうなずき──、
「始め」
しんと静まりかえった道場に虹庵の声が響いた。