恋口の切りかた
ふーん、と与一が薄笑いを浮かべたまま、俺と留玖を眺めた。

「これはこれは、つれない兄上だな」

なんだァ!?


目を剥く俺の前で、与一はそんなことを言いながら馴れ馴れしく留玖の肩を抱いてその場に立たせて、

「あの時オマエに言った言葉、俺は本気だぜ」

留玖の耳元に後ろから口を寄せて、意味深長に囁いた。

そうしたら色白の留玖の頬に、また朱が上って──


あの時!?

言った言葉ってなんだ!?

っていうか、テメエ留玖になに気安く触ってやがる!?


聞きたいことや言いたいことが山のように浮かんできたが、俺はどれも言葉にすることができなくてパクパクと口を動かした。


そんな俺を逆なでするように、与一はフフンと鼻で笑って、

「オマエさえ良かったら、いつでも俺の女にしてやる」

留玖に対して、甘い声でそう告げて──


言葉を失っている俺に冷ややかな目を向けた。


「女に対して酷いことばかり言ってると嫌われるぜ? 兄上?」

「な──っ」

「そんなんじゃ、俺に奪われても文句言えないねえ」


留玖に対する俺の秘めた思いを見透かしたように、与一は宣戦布告としかとれないセリフを寄越してきた。


「ほほう」と遊水が面白そうな声を出して、

「人気役者と武家の御令嬢の恋ってかい。こいつは、それこそ芝居にでもなりそうな話じゃねェかい」

「身を引いて正解だったな。当代切っての人気女形を相手にする度胸はボクにはない。まあ、頑張れよ」

固まっている俺の肩を鬼之介が叩いた。
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