恋口の切りかた
「お前を泣かせるようなこと言って、本当に悪かった」

円士郎は私の手を握ったまま、

「俺のこと、許してくれるか?」

と訊いた。


「はい」

私は真剣な彼の瞳を見つめ返して、こくんと頷いて、

「勝手なことしてごめんなさい」

と謝って、


円士郎の口元に微笑が浮かんだ。


「うん」と言って、円士郎が腕を引っ張って、

私は円士郎に抱き締められていた。


ど……どうしよう、どうしよう……!


私は、頭の中が恐慌状態に陥るのを感じた。


「そ……その、与一と何があったのか知らねーけどよ」

円士郎は私を抱き締めたまま、言いづらそうにそんなことを言って、


「お前が無事で本当に良かった……」


二人きりの部屋の中。

円士郎の腕の力が強くなって、耳元でそんな風に囁かれて、

全身の力が抜けていく気がした。


それから円士郎は身を離して、
優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれたけれど


「エン……」

私はぽーっと円士郎を見つめてしまった。
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