恋口の切りかた
そう、縄抜け。


あの夜、与一に縛られてみて初めてわかったのだけれど、私は意識を取り戻せてもあの拘束状態から自力で脱することができなかった。

もしも霧夜に扮した与一が味方ではなかったらと思うとぞっとする。

せめて──あまり考えたくはないけれど──この先同じような状況に陥った場合には、一人で対処できるようになっておきたかった。


「縄抜けか……。確かにそれもまた武芸の一つではある」

虹庵はそう言って、突然こんなことを言い出した私を観察するように窺い見た。


私を縛った与一が、こちらも素人ではないから簡単に抜けられるような縛り方はしていないと言っていたように──

相手に逃げられないようにきちんと縄で捕らえたり、そこから脱出したりという「捕縄術(とりなわじゅつ)」というものも、立派な武術だ。

鏡神流にもきっと伝わっているに違いないと考えた私は、七月に入ってすぐに虹庵のもとを訪ねたのだった。
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