恋口の切りかた
本当は父上に直接教えを請いたかったけれど、生憎と江戸だし。

師範代の虹庵に道場でゆっくり教えてもらおうと思っていたのだけれど、ここのところ町医者の仕事が忙しいのか、彼は道場に顔を出してもすぐに戻ってしまっていて、なかなか言い出す時間が見つからず、

痺れを切らせた私は、こうして虹庵の住まいに直接やってきてしまった。


「師範の晴蔵様が江戸から戻るのを待って教えてもらいなさい」

案の定、

穏やかに微笑みながら、虹庵はそんな答えを返してきた。


「でも、それでは──」

来年の春になってしまう。


私は必死に食い下がろうとした。

そんなに待ってはいられない。
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