恋口の切りかた
虹庵は苦笑して、

「それとも、何か早急に縄抜けの術(すべ)を修めなければならないような必要性に駆られているのかな」

と、私の顔を覗き込んだ。


ぐっ、と私は言葉に詰まる。

今回私が渡世人に捕まり、結城家の家名に泥を塗りかねない事態になったことは、虹庵も知らない。


「よく聞きなさい、留玖」と、虹庵は私の正面で居住まいを正した。


「武芸者たるもの、いついかなる状況にも対処できるように、縄抜けができることも大事かもしれないがね。

そもそも縄抜けの必要があるような状況に置かれるということは、既に相手に命を握られている状況なのだということがわかるかね?」


私は視線を膝元に落として、ぎゅっと両手を握った。

「はい……わかります」

白蚕糸の眠り薬を何の疑いもなく口に含んでしまった時点で、私は相手に命を握られてしまったのだ。

虹庵に言われるまでもなく、それこそが今回の最大の失態だった。

「うん。そこを理解しているのならば、まずは縄抜けをしなくてはならないような状況にならないために、鍛練を積むべきではないのかな?
晴蔵様でも同じ事を言うと思うが、どうだろうね」

そんな風に諭されて、私は唇を噛んだ。
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