恋口の切りかた
正体不明の凄みのようなものが滲み出た緑色の輝きにも、虹庵はまったく怯まず、

「だから彼女の縁組みが決まるように、君が裏で何かしたのかい?」

鋭い目で遊水を見てそんなことを言ったので、私は驚いた。

「俺が?」

遊水はせせら笑った。

「どうして?」

「さてね。何となくそんな気がした」

虹庵はふっと目元から力を抜いて、

「君はそういう身の引き方をする男のような気がしたんだ」

と言った。

「己が幸せにできない女に対しては、別の人間にそれを託すんじゃないかって?」

遊水は、私が初めて目にするような自虐的な笑い方で肩を揺らして、

「そりゃ買いかぶりだ、センセイ」

疲れた様子で溜息を吐いた。

「だいたい、ただの金魚屋の俺が、どうやって裏で何かするってんで?」

虹庵は、遊水が操り屋なんてやっていることについては、もちろん何も知らないはずだった。

「金魚屋だからこそ、だよ。
結城家にすら出入りがある君ならば、上級の武家の家にも、得意先にしていて顔が利くのだろう?」

「ああ、成る程……そういう思考か。さすが医者だ、あんたも頭がいいねェ先生」

遊水は虹庵の言葉に軽く頷いて、「御察しのとおり」と言った。

「蘭学や絵に興味のある御仁に、彼女のことをそれとなく紹介したのは俺だ」

「どうして、そんなことを──」

私は遊水をまじまじと見つめた。
< 1,329 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop