恋口の切りかた
「俺は確かに身分ある御仁に彼女を紹介しやしたが、でもね、それは俺が彼女の本当の素性を知る前だ」

遊水はそんなことを言った。

鳥英の──本当の、素性?

「彼女が武家の女だってことくらい、すぐに気づいてたさ。だから、俺が彼女の縁組みがまとまるように計らったのはね、本当は卑怯な賭けのつもりだったのさ」

遊水はよくわからないことを口にして、自嘲した。

「賭け……?」

何のことだろうと思って、私は首を傾げた。

「俺はきっと、先生が思ってるような人間じゃあねえよ」

遊水は悲しそうにそう吐き出して、再び暗い天井を仰いだ。

「そうかね」と、虹庵は遊水をじっと見つめて、


「確かに私は君のことを深くは知らないが──鳥英殿は聡明な女性だ。
そんな彼女が想いを寄せ、晴蔵様が認め、円士郎や留玖が慕っている君は、それに値する人物なのだろうと思っているよ。

これからも円士郎や留玖のことを頼みます」


虹庵は凛とした口調で言って、町人の男に頭を下げ、往診に向かうために長屋を立ち去って行った。
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