恋口の切りかた
遊水を一人残して、長屋を後にしようとしたら、
自分ももう行くと言って遊水も一緒に長屋を出て、

「縄抜けを教わりに?」

私が虹庵のところを訪れた帰りだと説明すると、可笑しそうに目を見開いた。

「ああ、いやいや失敬。良い心がけなんじゃあないですかね」

以前落ち込む私に対して、次に生かせという言葉をかけてきた操り屋は、そう言ってくすくすと笑った。

「遊水さんは……元盗賊だったってことは、もちろん縄抜けもできるんですよね?」

やっぱり安直な発想だったのだろうかと思って、やや鼻白みながら私が問うと、

「そりゃあまあ、当然できますがねえ」

遊水はあっさり頷いて、

私は改めて、周りの人たちに比べて、いかに自分が未熟者であるかを思い知った気分になった。

「しかし俺の場合は、盗賊だったからと言うよりは、旅芸人時代に教え込まれた技なんですがね」

「旅芸人の時に……?」

「ええ。何も縄抜けは武術ってだけではなくて、見せ物をやるにも基本だったりするもんで。

軽業やなんかの芸ってのは、武術や──盗賊に必要な技能にも通じていたりするんですよ。だからこそ、俺も芸人一座を盗賊に仕立て上げるなんて芸当ができたってワケで」

なるほどと私が納得していると、美貌の青年はにやりとして、

「何でしたら、俺がお教えしやしょうか」

なんて言い出して、私は慌てた。

「だ……っ大丈夫です! 虹庵先生からも、宗助に教わるように言われたし」

この金髪の美青年から教わるというのも、何だか鍛錬に集中できない気がした。

真っ赤になった私を見て、遊水は吹き出した。

「まあ、宗助めなら確かに得意分野でしょうぜ」

しっかり修得しなせえと言って、

武家屋敷の界隈に向かう私と別れ、遊水は町のほうへと去っていった。
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