恋口の切りかた
鳥英のことは気になったけれど、屋敷に戻ると円士郎は留守で──

私が部屋にこっそり宗助を呼んで、捕縄術について習いたいと言うと、
宗助は能面のような顔に渋い表情を作った。

「おつるぎ様」

宗助は改まった感じで私の前に座って、

「今回おつるぎ様が渡世人に捕まったことで非があるとお考えならば、縄抜けを修得しようとなさるのではなく、簡単に薬を盛られたりしないように心構えを正すべきではないでしょうか」

虹庵に指摘されたのと同じような内容だった。

そう言われてしまえば、まったく返す言葉もなかった。

「それは……何に気をつけたら良いのかな」

私はしょんぼりしながら忍の男に尋ねた。

「白蚕糸に盛られた薬には、匂いも味も変なところがなくって……全然気がつかなくて……」

宗助は大きく溜息を吐いた。

「匂いや味の違和感で気がつけたならば、それに越したことはありませんが……薬を盛ろうとする人間が目の前にいるなら、その態度に違和感がないかに注意しなければなりません」

「人間の態度に……?」

「ですが、白蚕糸のようにその道に長けた者が相手であれば、それも難しいでしょうから……まずは敵地でうかつに敵に勧められた食べ物を口にしないことです。

今回おつるぎ様がとった行動も、諜報活動の一つと考えるならば──隠密にとってこれは敵地での行動の基本中の基本です」

「ごめんなさい。今度からは気をつけます……」

私は肩を落とした。


きっと、

こんなうかつな行動をしておいて、縄抜けを教えてほしいなんて、

宗助にはあきれられてるんだろうな、と思った。
< 1,334 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop