恋口の切りかた
「さて、刀丸はいくつだ? 平司とどちらが兄になるのかな?」

「ああ、刀丸は春、平司は冬の生まれだから、刀丸のほうが生まれたのは先だぜ」


俺は親父殿にそう教えて、目を丸くしてことの成り行きをながめている平司を振り返った。

「おう、良かったな平司。
おまえにも、もう一人兄上ができたぜ」


「な、なななな……」

平司はまだ目の前の展開について行けていないようで、「な」を連呼した。


「よし、では十兵衛。刀丸を奈津のところに……」

「あのォ、ちょっと良いですかな兄上」

「なんだ?」

「…………」

虹庵は俺と親父殿を何とも言えない表情で見比べた。


──?


「やはり、にぶいと言うか何と言うか……親子ですかねェ、これは」

「は?」

虹庵は大きくため息をついて苦笑し、

「いーえ、結構。
では、私は新しい『甥っ子』の刀丸殿をご新造の所に連れて行くとしますかね」


そう言って刀丸の手を引き、叔父は道場を出ていった。
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