恋口の切りかた
刀丸しっかりしろよ!


温かい背中から、力強い声が聞こえる。


すぐ、オレんちに着くからな!


ああ──この声に、温もりに

私はずっと救われてきた。


彼が私を救ってくれた。


「……レンちゃ……」


背負われたまま、声を出して、


「気がつきましたか?」


耳慣れた声で目を開いた。


「遊水さん……?」

「今は、青文です」


私を背負ったまま夜道を歩いていた若者は、少し苦笑しているような声でそう言った。


ぐらぐらと揺れる視界は、負われているからというだけではないようだ。


「私……?」

「倒れました」

朦朧とする頭で尋ねると、背中からそんな答えが返ってきた。


やっと自分が、若い家老の背に背負われているのだと気づいて、

「自分で歩きます」

慌てて私はそう言ったのだけれど、

「先刻の様子ですと、今は無理です」

青文は歩みを止めぬまま静かな口調で言った。

「幼い頃を思い出したのでしょう。もっと早く、あなたの異変に気づくべきでした」

ふと、目の前にある頭を見ると、彼は切られた布を結んで再びしっかり覆面をしていた。

「あの後、物音を聞きつけた人間が駆けつけて騒然となりました。
貴女を結城家に送り届けたら、私は現場に戻ります」

くらくらと眩暈がして、
全身の力が抜けて、

再び意識が沈みそうになった。
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