恋口の切りかた
「申し訳ありません……青文様。
私がお屋敷を訪ねたばっかりに、祝言の前夜にこんなことになって……」
夢うつつの狭間にいるような、ぼやけた頭で私は謝った。
「あの鎖鎌の人に、顔、見られてしまって……」
「ああ、もうどうでもいいんですよ。そんなことは、何もかも」
優しい声がそう言って、ふふ、と笑う声が返ってきた。
「え……? でも……」
「亜鳥のことを思ってくれたのでしょう。貴女は本当に優しい娘です」
その名前を耳にして、先刻脳裏を過ぎった考えが蘇った。
「亜鳥さんは……亜鳥さんとあなたは──」
「私は亜鳥の仇です」
ぼんやりした思考の中に、冷たい響きが染みこんでくる。
仇──
「そんな……でも、どうして……」
「亜鳥はまだ、私の正体を知りません。明日には、知ることになるでしょうが」
「どうして……」
静かに言った青年の背中に、私は繰り返して、
「どうして私が亜鳥を妻に迎えようとしたか──あなたが先程も尋ねたその問いの答えは、明後日の朝にはわかるでしょう」
やっぱり優しい声はそんな内容を紡いだ。
「だが、一つだけ私の口からお伝えするならば……私もまた、知らなかった」
知らなかった──?
彼の顔は見えなかったけれど、
優しくて、悲しい声だった。
「何も知らずに……彼女に対して許されぬ思いを抱きました」
そんな……
「因果応報ということなのでしょうねえ、これは」
りい、りい、聞こえている虫の声と一緒に、静かな言葉が耳に届いた。
私がお屋敷を訪ねたばっかりに、祝言の前夜にこんなことになって……」
夢うつつの狭間にいるような、ぼやけた頭で私は謝った。
「あの鎖鎌の人に、顔、見られてしまって……」
「ああ、もうどうでもいいんですよ。そんなことは、何もかも」
優しい声がそう言って、ふふ、と笑う声が返ってきた。
「え……? でも……」
「亜鳥のことを思ってくれたのでしょう。貴女は本当に優しい娘です」
その名前を耳にして、先刻脳裏を過ぎった考えが蘇った。
「亜鳥さんは……亜鳥さんとあなたは──」
「私は亜鳥の仇です」
ぼんやりした思考の中に、冷たい響きが染みこんでくる。
仇──
「そんな……でも、どうして……」
「亜鳥はまだ、私の正体を知りません。明日には、知ることになるでしょうが」
「どうして……」
静かに言った青年の背中に、私は繰り返して、
「どうして私が亜鳥を妻に迎えようとしたか──あなたが先程も尋ねたその問いの答えは、明後日の朝にはわかるでしょう」
やっぱり優しい声はそんな内容を紡いだ。
「だが、一つだけ私の口からお伝えするならば……私もまた、知らなかった」
知らなかった──?
彼の顔は見えなかったけれど、
優しくて、悲しい声だった。
「何も知らずに……彼女に対して許されぬ思いを抱きました」
そんな……
「因果応報ということなのでしょうねえ、これは」
りい、りい、聞こえている虫の声と一緒に、静かな言葉が耳に届いた。