恋口の切りかた
「私に関して、聞きたいことはたくさんあるでしょうが……どうぞそれは、円士郎様からお聞きになって下さい」


青文が足を止めていた。

目の前にはいつの間にか、結城家の長屋門があった。


「先刻、おつるぎ様には──私の顔は、見えていたのですね」


門を見上げたまま、

ぽつりと、元盗賊だという青年はそんなことを口にした。


「それが、嬉しかった……」


「遊水……さん?」


見慣れた長屋門を目にした安堵で、急速に意識が遠退いていく。


「青文ですよ。……できることならば、貴女の中では最後まで、遊水のままでいきたかったですが──」


視界がかすみ、やはり悲しそうな言葉だけが届いて、


「貴女たちと遊水として過ごしたこの一年は、私の一生の中で一番楽しい時間でした」




「貴女のような人間と出会えたこと、嬉しく思います」





「さようなら、優しい娘よ」






「どうか円士郎様とお幸せに」






私の意識が最後に捉えたのは、永遠の別れのようなその響きだった。
< 1,419 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop