恋口の切りかた
「エンが私に、青文様がただ冷たいだけの人じゃないことを知ってるって言ったのは──そういうことだったんだね」

水路を眺めながら円士郎と交わした会話を思い起こしながら、私は円士郎に微笑んだ。

「留玖……」

「演じてただけじゃないよ……ちゃんと存在してたよ……
あれが──伊羽青文っていう人なんでしょう?」


以前、落ち込んでいた時、

それから私が失敗した時、


町人の姿をした金髪の青年がかけてきてくれた言葉や優しさこそが、

覆面の下に隠れて五年前には見えなかった、伊羽青文という人の素顔に思えた。


「遊水さんでも、青文様でも、どっちでもいいよ。あの人は大事な友達だよね?」

私は円士郎を見上げて、必死に言った。

「そうだよね? エン……」

「ああ、そうだな……」

温かい手が私の頭を撫でた。


「でも……だけど……亜鳥さんも、大切な友達だよね……」

私はもう一度、彼の胸に顔を埋めた。

「なのに、なんで……こんな……」

「俺が悪いんだ」

円士郎が後悔の滲んだ声を出した。

「俺が、何も知らずに一年前、あの二人を引き合わせた。
あろうことか亜鳥に──あいつの親父の仇の命を救わせる真似をさせちまった……」


そうだ。

鳥英が遊水の治療に手を貸したという事実は、そういうことになるのだ。


でも……
だけど……


「エンは……悪くないよぉ……」

私はまた悲しくなって、円士郎にしがみついたまま泣いた。
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