恋口の切りかた
亜鳥はまだ、知らない。

しかし今日は祝言だ。

知ったら──彼女はどうするのだろう。


自分の好きな人が、仇だと知ったら──


五年前、青文を暗殺しようとしたのは彼女の父親だ。

しかしそれを逆手にとって、青文が雨宮家を陥れたのもまた事実なのだ。


私だったら……どうするのかな。

大好きな人が──円士郎が、もしも自分にとって仇だったら──なんて、



そんなの、考えられない。



「どうしようもないのかな……エン、エンは今日の祝言に行くんだよね?
どうにかできないのかな……」

再び顔を上げて言ったら、
円士郎が一瞬、言葉に詰まったように私の顔を覗き込んで──


「行かねえよ」


泣きそうな顔がそう言って、

私の背に回された腕が、強く私を抱き寄せた。


「行けるわけねえだろ! こんなお前を一人にして……!」
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