恋口の切りかた
嫌な予感がした。

「昨日の夜……あの人、様子が変だった」

残された言葉のどれもが、不吉な響きを含んで耳の中にこびりついている。

今生の別れのような言葉の数々。


あれでは、まるで──



「まるで、これから死にに行く人みたいだった……」



円士郎が身を離し、私の顔を覗き込んだ。

「私は大丈夫だから」

「留玖……」

心配そうな顔をする円士郎に、私は微笑んで見せた。

「エンが、そんな風に言ってくれるだけで、私はもう平気だよ」

胸の奥がきゅうっと締めつけられるような感じがして、私はえへへと笑ってうつむいた。


「だから、二人の祝言に行ってよ……」


円士郎が行ったところで、どうにもならないことのような気もしたけれど──

今、目の前にあるのは、
村にいた頃には想像もできなかった、この武家社会の暗い部分で

あの二人の間には、どうしようもない関係が横たわっているのかもしれないけれど


それでも、二人とも大切な友達だと思う。


「このままだと、何か……悲しいことになりそうで……嫌だ」


何か、取り返しのつかない未来が待っていそうな──


これまでの楽しい時間のすべてが、そんな結末につながっていくのは嫌だった。


「……わかったよ、行ってくる」

円士郎の優しい声が、頭の上で言った。

「だから留玖は、無理せずに寝てろよ」


私は温かい安心感に包まれて、やっぱり円士郎が大好きだと思った。
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