恋口の切りかた
「円士郎殿、大丈夫か?」

ぼう然と立ち尽くしていた亜鳥が俺の肩に手を置いて、

「……ああ」

這いつくばっていた俺は口元を拭って立ち上がった。

「この野郎ォ、少しは加減しろよ」

金髪の男を睨みつけると、白い顔は悪びれた様子もなく鼻を鳴らした。

「俺が加減していなければ今頃あんたは、胃の中身ではなく血反吐をぶちまけて死んでいる」

「…………」

そうかもしれねーけどよ。


くそ……手荒い真似しやがって……。


俺は胸の中で毒づきながら、風佳を見た。

風佳は怯えた目で、一歩後ろに下がった。


「なあ、風佳。冗談だよな?」

俺は風佳に一歩近づいて──

よく見ると、道に落ちている赤い包みは紙だけで、中身が入っていないことに気づいた。


それは、この赤い紙の中身が使われたことを雄弁に物語っていたが──


だって……

いくら俺のことを風佳が嫌ってるからって──


さすがに俺も、殺されるほど恨まれることをこの許嫁にした覚えはない。


こんなあどけなく儚げな娘に殺されかけたなどと、にわかには信じられなかった。
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