恋口の切りかた
「お侍様、どうかなさいましたか?」

店先で騒いでいたせいか、三舟屋の店の人間が俺におそるおそる声をかけてきて、

「いや、何でもね──」

言いかけて、俺は体の異常を感じた。

手足が引きつるような感覚があって、その場に倒れ込む。

「円士郎殿!?」

「お侍様、どうなされた!?」

亜鳥と店の者の声が聞こえて、


がくがくと痙攣のような震えが全身を襲った。

体の中が燃えるように熱い。


──なんだ、これ……?


「円士郎殿に何を飲ませた!?」

亜鳥が風佳の肩をつかんで揺さぶっているのが見えた。

「おい、円士郎様……!? しっかりしな! これは、いったい──」

与一が倒れた俺を覗き込んで、

「水を……!」

青文が店の者に頼んでいる。


騒然となる周囲の中で、


「名前は……知りません……」


俺の耳は、か細いその声を拾った。


「ひとたび腹に納めれば、吐き出しても、効果があると聞きました……」


ぽろぽろと涙を零しながら、風佳は震える声でそう言った。


「たとえ……命が助かったとしても……重い後遺症が残る……薬だと……」


うそだろ……風佳──


愕然としながら、俺は痙攣を繰り返す体で、許嫁の少女を見上げた。


本当にお前が、俺を──


「ああ……申し訳ありません……! 申し訳ありません、円士郎様……!」


風佳が謝りながらその場に泣き崩れる。

その様を眺めながら、


なんで……?


頭の中にはただただ、その疑問だけが浮かんでいた。
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