恋口の切りかた
「これ……」

留玖は先刻からずっと大事そうに抱え込んでいたものを差し出した。

「これね、かんざしのお礼にと思って……着物、エンのために縫ったの」

え……?

俺は差し出されたものをまじまじと見つめた。

「着物……?」

ぐらぐらする視界で、
かろうじてそれが、丁寧に折り畳まれた布だということがわかった。

「……俺に……?」

「うん……」

「留玖が……縫ったのか……?」

「うん、そうだよ……」

「はは……やっぱり夢かな……」

「違うよ、夢じゃないよぉ……!」

寝たまま動けない俺の上に、手にしていた着物を留玖がふわりと掛けた。

「私、これ、頑張って縫ったんだから……!
指、針でいっぱい刺しちゃったけど、時間もかかったけど、エンのために私、一生懸命縫ったんだから……!
エンに、着てもらおうと思って……なのに──」

留玖は泣きながら俺にすがりついた。

「やだ……死んじゃやだよ、エン……」

「留玖……?」

「やだぁ……」

そんな風に泣く留玖の声を聞いて、ようやく思い出した。


そうか……俺、

風佳に──毒を──
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