恋口の切りかた
「死なねえよ……。死ぬかよ、ばか」

留玖の頭を撫でる。

「お前を一人にして、死ねるわけねーだろうが」

言いながら──



命を取り留めても、重い後遺症が残る。



あの時、意識を失う寸前に聞いた言葉が脳裏をかすめた。


力がまるで入らない両手に、氷のような恐怖が湧き起こる。



それでも、

「俺は平気だ、留玖」

涙に濡れた留玖の頬を撫でて、俺は微笑んだ。

「エン……」

「お前がせっかく縫ってくれた着物も……着ねーとな……」


エン!?

しっかりしてよ、エン……!



強烈な眠気が襲ってきて、留玖の声が遠退いた。

再び暗い淵の底に沈んでいくのを感じながら、

今の出来事は夢だったのだろうか、
それとも現実だったのだろうかとぼんやり考えた。
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