恋口の切りかた
「鬼之介や亜鳥さんに頼んだら変な柄になりそうだし、
隼人さんや加那さんにはこんなこと、恥ずかしくて頼めないし、

ゆうす──青文さんは着物の趣味も良さそうだけど、あの人はいつ会えるかわかんないし……」

「それで俺にか……」

「うん。与一さんならきっと、男物の着物にも女物の着物にも詳しいだろうなあ、と思って」

「ま、その判断は間違ってないけどねえ」

今日は人気役者の顔をした侠客は、粋な着流し姿で、
擦れ違う町娘はことごとく振り返ってくる。

鬼之介に作り直してもらっている右目は、一座には怪我をしたと伝えてあるらしく、
今は眼帯をしているけれど、

それでも野暮ったい感じは全くしなかった。


「俺の女にしてやるって言った相手に、思い人へ贈る着物の柄の見立てを頼むなんざァ、いい度胸だねェ、おつるぎ様も」


整った顔でにやっと笑って与一は言った。


「えっ……」


私はまたしても顔から火が出そうになって、思わず立ち止まって硬直した。


「この鈴乃森与一を甘く見るんじゃないよ。
その顔はどう見積もったって、恋しい男を思う女の顔だろ」


「えっ……ええっ……」


何も言えなくなってしまった私を見下ろして、与一はもう一度軽く嘆息した。

「いいよ。つき合ってやるさ。
好いた男のために着物を縫いたいなんて泣かせる話じゃないかい。

おつるぎ様のその恋路、この俺も一肌脱いでやるよ」

与一は粋な感じで格好良く有り難い言葉を口にして、

「それでも円士郎様に飽きたら、いつでも俺の女にしてやるから、そいつは覚えときな」

と笑った。
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