恋口の切りかた
その声や口調は女形のものに思えて、
あの事件の時に聞いた暗夜霧夜や鵺の大親分を思わせる響きも混ざっていて、

常に誰かを演じているこの人の、演技ではない部分が垣間見えているような気がした。


「ありがとう……」

私はうつむいたままお礼を言って、

「しかし、あのお人の着物の趣味は普段から滅茶苦茶だからね。適当に選んだって問題ないんじゃないのかい」

与一はケラケラ笑った。

「そ……そんな……!」

「わかったわかった。心配しなくッても、愛しい円士郎様のためにちゃんと見立ててやるよ」

与一はからかうようにそんなことを言ったりして、

一緒に入った反物屋で、
人気役者は慣れた様子で店の人と話しながら、楽しそうに生地を選んでくれた。


「しっかしおつるぎ様、着物なんて縫ったことあるのかい?」

私が大事に風呂敷包みを抱えて反物屋を出たところで、与一はそんな質問をしてきた。

「この俺もさすがにそこまでは教えてやれないよ」

「大丈夫、それは教えてもらおうと思ってる人がいるから……」

ふうん、だったら頑張りなと与一は笑って、私はお礼を言って彼と別れて、


戻ってきた屋敷で、私はこっそりりつ様の部屋を訪ねた。

私が着物を縫いたいから教えてほしいと頼むと、りつ様はやっぱり与一と同じように目を丸くして、

それから

初めて会った頃と少しも変わらない少女のように若い女の人は、ころころと鈴を転がすような笑い声を立てた。

「それは、どなたに?」
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