恋口の切りかた
「おはようございます、兄上、姉上」

平司はていねいに正座して頭を下げた。


「……おう」

漣太郎が無愛想に短い返事を返して、


「お、おはようございます」

おれは初めて「姉上」なんて呼ばれて、緊張しながらあいさつを返した。


平司は自分の席に着くと、
姿勢を正しておれのほうを向き、キッとおれを見据えた。

「姉上! お願いがございます」

「は、はい?」

おれもあわててかしこまって平司を見た。


「この後、道場で稽古におつき合い願えますか!
ぜひとももう一度お手合わせを!」


断ったら切腹でもするのではないかというような、鬼気迫る真剣な表情だ。


「え? えっと……いいのかな?」

おれは漣太郎の顔をちらっとうかがった。


「ん? ああ――別に問題ねぇだろ」

漣太郎はそっけなくそう答え、


おれはやっぱり悲しくなる。


「うん、わかった。勝負すれば良いんだね」

「は。お引き受け下さりありがとうございます!」


平司は相変わらず嬉しくもなさそうな真面目な表情で頭を下げ、

漣太郎には目をそらされて、



おれは再びしょんぼり肩を落とした。
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