恋口の切りかた
「盛られた毒は少なく、腕のことは一時的なものだろうと私が告げると、安心したご様子だった。
苦笑いしながら、自分も人の親だ、不出来でも自分の息子のことは気にかかるものだと仰っていたよ。

その後で、あれには腕のことは伝えるな、放っておけと言われた時は──私も医者としてどうするべきか少し迷ったのだけれどね」


目をまん丸にしている私を見下ろして、虹庵は微笑んで、

「だから留玖、晴蔵様とて円士郎のことがお嫌いなわけではない。
ちゃんと心配して下さっているから、安心しなさい」

と言った。

私は胸の辺りがほかほかするような気持ちになって、嬉しくて、
「良かった」と呟いて

そうしたら、

「留玖は優しい子だな」

虹庵は目を細めて私のことを見た。

「君のような子が、ずっと円士郎のそばにいたら──彼は幸せだろうな」

そんなことを言われて、私は赤くなってしまった。

「君が円士郎のそばにいてあげなさい」

と言って、虹庵は帰って行って、


それは、もちろん……「彼が元気になるまで」という意味なのだろうけれど──


──ずっと円士郎のそばに──


虹庵の言葉がいつまでも残って、どきどきと鼓動がうるさく鳴っていた。



円士郎の部屋に戻ると、彼は床の上で半身を起こしたまま、じっと何かを考えるように手元に視線を落としていて、

「留玖も、ごめんな」

顔を上げて私を見ると、そんな風に謝った。

「風佳とお前は、せっかく仲のいい友達だったのにな」

私はまた驚いてしまって、円士郎を見つめた。
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