恋口の切りかた
「エンのせいじゃ……ないよ」

私は床(とこ)の横に座りながら、言った。

「自分を責めたりしないで……」

私の言葉を聞いた円士郎はちょっと目を見張って、それから困ったような笑いを作って、

「責めてるってわけじゃねーんだけどよ」

と言った。

「俺が死にかけたせいで、どうしようもねーことになってるってことに対して……己の未熟さは噛みしめてるかな……」

そうこぼして、円士郎はうつむいた。

その横顔をぼうっと見つめていたら、切れ長の目が動いて、私を映して、

「どうした?」

「ううん。エンはやっぱり凄いなあ、と思って……自分のことだけじゃなくて、大河家とのことまでちゃんと考えて」

「何言ってるんだよ」

円士郎は可笑しそうに唇を吊り上げた。

「お前こそ、初めから俺の心配ばかりしてくれてるじゃねーかよ。
他の女中から聞いた。消えたおひさって娘も、お前の友達だったんだろ。

風佳も、おひさも──お前には大事な友達で……どうなるのか不安だったんじゃねーのか?」

優しい目で見つめられて、

これまで押さえつけていた重しがとれるように、
私の中で、仲良くなれた大切な友達を二人ともなくしてしまうことになるかもしれないという孤独が湧き起こった。


人間関係はもう、回復できないのかもしれないけれど、


「エンが無事で……それだけでも良かったよ……」

私は震える声で言って、円士郎の寝間着の袖の端をきゅっと握って、


「エン、なんだか少し格好良くなった……」


微笑んで彼の顔を見上げた。
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