恋口の切りかた
そうしていつものように、私を苦しめる現実がむくりと頭を起こす。


──彼とずっと一緒にはいられない。


好きになればなるほど、
つらくて、
胸を引き裂かれそうで、
悲しくて……


「留玖、大河家との間の俺の縁談はこれでなくなった」

円士郎の吐息が耳元でそう告げた。


ギクリとする。


こんな形で縁談が破談になって

喜んで良いわけない──

そう思っても、頭の中では


これで風佳と円士郎が一緒になることはない、

その事実にほっとしている私がいた。


私は、悪い子だ──


なんていやしくて、嫌な子なんだろう──


許されないと知りながら、それほどまでに円士郎に恋い焦がれるなんて、私は……


「でもすぐにまた、他の先法御三家の真木瀬家か、菊田家か──或いは他の家か──
縁組みの話は来るだろうな」

円士郎の声が残酷に言って、私は凍りついた。

円士郎の腕が離れ、
崖から突き落とされたような気分で、私はへなへなとその場に座り込んだ。

「なあ、留玖」

行灯の火が入れられていない暗い室内で、円士郎はそんな私の顔を覗き込んだ。
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