恋口の切りかた
帯刀は眉間にかつてないほどの深い深い渓谷を刻んで、深い深い溜息を吐き出した。


「ならば永久に口を閉ざそう」


俺は目を丸くした。


「意外そうだな」

帯刀は俺たち三人の表情を見回した。

「いや、だってよ……」

「俺も、この場で先法御三家の嫡男と同僚の二人と斬り結ぶ気はない」

「え……?」

言われて、俺は隼人を見て──

狐目の男が、脇差しに手をかけて片膝を立てていた。

「……俺は、役宅内で刃傷沙汰なんてまずいと思ったからですよ」

隼人は苦り切った様子で座り直しながら俺たちを睨んだ。


帯刀が、黙っている金髪の男に向き直った。


「御家老のご覚悟、確かに見せていただいた。
今後もこの国のためにご尽力くださりますよう」


そう言って、帯刀は深々と頭を下げ、


「そう簡単に死ねると思うなよ」

俺は刀から手を離して、
帯刀を見つめている城代家老の肩を叩いた。
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